在る/道草次郎
 
こういう一つの思想がある

在るものはみなかいくぐり来、即今、そこここに顕現している

という思想である

砂粒一粒にも、数世代前の恒星系の残闕、それを成す要素の一々にも、億百の御霊の凋落と重来の累積


またこういう一つの思想もある

在るものはただ在るのみで、ただ、のただにはただ何も無く、在るだけがただ、そこここにただ、在る

という思想である

水の分子一つにも、全方位からの光が照射され、影という影の影すら無く、しかし影の概念のみをそこに纏わせて


またこういう一つの思想もある

在るものはじつは在らず、在らざるものはじつは在る、しかし乍らそこには何かが在る、とはあえて語らず

言ってしまうと死んでしまうものもあり、なにかを死なせたくはないその心ばえは、微笑の中の謎めく遺跡として


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