涙/フォマルハウト
最後まで
涙は見せたくなかったのです
幼い頃から
ずっと我慢してきました
どんなに痛くても
どんなに哀しくても
誰かの前で泣いたことはありません
それは
わたしがわたしであるためのささやかな矜持
あの夜
あなたの胸で思い切り泣いてみたくもなりました
でもそうしてしまえば
わたしはわたしでなくなって
寂しさに押しつぶされたまま
きっとあなたのことを困らせて
格好よく「お元気で」なんてお別れするのは無理でした
だから
余計な水分は目に沁みこませて
泣き声はごくりと飲み込んで
最後まで
涙は見せたくなかったのです
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