トラムの話/春日線香
 
トラムは悪い病気を持っている。唇に薄紅色の肉の塊が垂れ下がり、ちょっと見には馬鹿みたいな花を口にくわえているようだ。だから大首女や酒飲みのガンに笑われるし、うだつが上がらなくていつまでも一人前に見られない。今日も街外れの遺跡で砂を掘っている。空に月が昇るまで毎日そうしている。

トラムが歌うと人々は嫌がる。口の肉がぶるぶると震えて、深い地の底で鳥が殺されているような音がする。おまえが歌うとどこかから不幸が運ばれてくるようだと皆はトラムに言い、また彼自身もなかばそれを信じているので人に聴かせようとはせず、一人のときに口ずさむ。トゥララ、トゥルララ。おもちゃみたいなスコップで砂を掘る。

ある
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