飴色の雨/月夜乃海花
 

「早く、早く」
「もう、しつこい!」
少女は少年から遠ざかる。
何もかもから逃げるように。口を大きく開けて。

「おなかすいたよ、おなかすいたよ」
少女の口の中に飴が溜まっていく。
「みんなきれい、みんなきれいよ」
走っていた少女は足を止め、
頬袋ができた鼠のように飴を詰め込む。
「これでみんな喜ぶわ、兄上も、母様も」
頬に、手に、服のポケットに溢れるだけ飴は降ってくる。
「みんな幸せになれるわ、きっとこれは願いのかけらなのね」
少女は後ろを振り向く。
しかし少年、いや兄上は既に居なくなっていた。
「兄上?」
飴は少しずつ色褪せていく。
「母様?」
あんなに
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