喩が生まれる時/につき
 
つい口ごもる
あなたの前では
それはもっと本当の
もっと本当のままで
いつかきっと話せるから
そんな顔をしている楓があった
……無口な楓

もう帰らない
ここには二度と
冬を待たずに冷たく
凍えるような記憶
夢の中ならきっと会えるから
もうどうしようもなく山茶花が咲いた
……赤い山茶花

熱い夜だからと
眠れないからと
湯上りの桃のようなうなじ
甘いような危うさ
闇に光る一等星の瞳
月の下でゆっくりと蕾がひらいた
……甘い光り

揺れ巡る
白銀の山脈は鋭く輝き
麓には星雲を従える
蒼炎の海が
水晶のさざれの泉を映す
叶えられないことなど何一つない
……アンドロメダの夢

螺旋の時が過ぎていく
金の縦糸が一すじ
無限彩色の横糸と交差する
時は錦秋の主
全てを貫く針
……喩がまた一つ生まれる
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