死紺亭兄さんへの手紙 /服部 剛
私がその男を目撃したのは、19年前の夏。
井の頭公園野外ステージのオープンマイク。
オレンジ色のTシャツに、黒縁眼鏡、銀ぎら
ぎんのプラスチックのマイクを握りステージ
に立った男は「OK〜〜〜!」と、叫んだ。
何がOKだか、分からなかった。 が、眼鏡
の奥の眼光は残像となり、焼き鳥屋の煙漂う
帰り道で〈彼は一体何モンだ?〉と呟いた。
あれから時は流れ、私共はそれぞれのぬかるみ
に足を取られては、抜け出して、何とか歩いて
いるうちに……いつしかオッサンと呼ばれる齢
になっていた。 ある晩の Twitterの 架空の
『詩人バーむらさき』のカウンターで兄さんは
ぽつり言
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