縁を歩く/六九郎
る
あのおれは堂々と歩いている
あのおれは歩くのを止めて縁に腰掛けている
あのおれは樽の中に足を滑らせた
樽の底はもちろん見えない
どこまでも深くどこまでも暗い
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
おれは縁を歩いている
歩きながら踊っている
おれだけの拍子で
だれとも違う
無様な振りで
裸の腹を突き出して
ふんどし一丁のラフな姿で
スタートもゴールもない
樽の縁を
よろよろと
よろめくように
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
ずっと上の方から
薄明かりの向こうの方から
低い声が高く轟く
「お前を見ているぞ」
「お前を見ているぞ」
全ての衆生を救うと言われている者の声
決しておれを救おうとはしない者の声
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
ひょっ
ひょっと
くいっくいっ
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