ソーシャル・ディスタンス/六九郎
黄色く禍々しい風が吹き荒び
声も歌も奪っていった
蜜も繋がりも消え失せた
外を歩くときは全ての感覚器を布で覆わねばならなかった
そんな中、ある者達は動画や写真をネットに晒し
いいねを稼ぐことに夢中になった
だが嵐の時にも慎み深さを忘れない我々には
もう文字しか残されていなかった
あんなはしたない真似はためらわれた
我々の中のある者は久しぶりに手紙を書き
またある者は日記を書き
ある者は詩を書いた
そしてある者はネットでチャットを楽しんだ
久しぶりに言葉が輝きを取り戻したようだった
手紙は返信を呼び返信はさらなる返信を呼び覚ました
日記にはミミズの這った痕のような日々の泡が連綿と綴られた
詩は徐々に勢いを増しなかなか止まらなかった
キーボードを打つ指は痙攣を始めチャットはいつしか乱交になった
我々は皆全裸になり
ある者はペンで書かれた文字の上を
ある者は自分の取るに足らぬ日常の上を
ある者は投稿した詩の上を
ある者はモニターに点滅する黒いドットの上を
かすかに上気させた顔をして転げ回った
誰からも遠く離れた場所で
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