ロングパス/六九郎
ラスの瞳。
と、その時二人の間を妻の黒い影がよぎり女の腕からそれを掻き出す。掻き出すと同時に妻はそれをスナップ。キャッチした彼は弾みでよろよろと後ろへドロップバック。天井灯の白い光が彼の眼を射す。網膜の奥で白い光が何列もの像をなし彼の視覚を狂わせる。目を開けば鮮やかなグリーンの絨毯は今やどこまでもフィールドを伸びていく。不意に沸き上がる歓声。今やそれは大音量となり彼の耳を満たす。こんな感覚はいつ以来だろう。もちろん彼はそんなことを考えはしない。今この瞬間に言葉など不要。世界と彼との間にはもうタイムラグは存在しない。全てがぴったりと、収まるべき所に収まって、自分がいるべき所にいる、あの懐かしい
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