翻訳の詩/道草次郎
 
てのひらで顔を隈なく触ってみる(世界の表面を隅々まで撫でてみる)

これは目これは鼻これは口(これは台風これはチョモランマこれはイグアスの滝)

じょりじょりしてる髭もある(鬱蒼とした熱帯のジャングルがある)

耳からの輪郭を手の甲でなぞってみる(水平線を朝明けの光が際立たせてゆく)

人差し指の腹で下唇をつつく(コアラの爪がオーストラリア大陸にしがみ付く)

小鼻を摘んで離す(富士山をつまむと)

乾いた指に少し脂がつく(真っ白な冠雪が舞う)

短い前髪をうえから押さえ付け(ツンドラ地帯を吹き抜ける風はやがて)

そのまま下へ眼窩を感じ(桂林のタワーカルストを抜け)

鼻梁を辿り(ピレネー山脈を越え)

唇のしめりを抜け(南アジアの湿原を渡り)

下顎まで来てとまる(南極大陸へと到達する)
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