持たざるもののための水/木立 悟
 





何も無い荒野から
無いものの無い荒野へと
言葉を言葉に放つ指
言葉を言葉に散らす指


腕の先 拳の先
曲線 放物線
吸い込まれてゆく
泪とともに生まれる花


蜘蛛を助け 蝙蝠を捨てる
暗い双頭の蚊がそれを見つめる
未明 夜明け
階段を流れる鱗の陽


花の雨を見つめるけだもの
水たまりの底の花を踏めずに
水たまりの街を越えるけだもの
花の雨 足跡 花の雨


双つの夕方が重なり
氷を巡り 去ってゆく
鉄の板が撓む音
空の双つの虹彩を揺らす


夜は迫り上がる
夜の内に 夜の後ろに
檻と渦の影が作る
夜に置かれた夜の迷路


とらえようとひらいても
手のひらを穿つ花 言葉 雨
自らの血を踏み つづく足跡
雨の上をゆく四ツ足の雨


羽の陰に 尾の陰に
匿うものは決めていたのに
けだものは傷を 血を晒し
蕾の原をすぎてゆく


















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