鈴虫によせて その2/すいせい
 
    

    母




触れることが
ないのであれば
なくことはなかった


どんなに言葉を尽くしても
そこには夜があるばかりで
ひろわれるもの、ひろうもの
いずれも擦り合うことはなかった


舞うようにしむけられた
細い髪が
無数の雨のように
したたって


告げられるのであれば告げて
秋の瞬きだとしても
伸ばせるのなら伸ばして
しまえばよかったと
ただ手招くように
芒は耳をうしなった


静かに震えている
鈴虫の翅をむしる
うしなってしまえば
うしなうことはないから
おやすみを言うよりたやすく
無言のうたは身を焦がして


もう寒い季節がくる
くちびるにほのおを
灯し
陽炎は静かにきえた
悴む手に息を吹きかけて
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