洪水のあとに/道草次郎
も少しした。
心を揺さぶる何かが、そのいくぶん嗄れた歌声によって齎されたのは否定できない。あいみょんがそんなに良いかと言われれば、そうでもないような気もするし、やはり良いような気もする。いずれにしろ、その感動がぼくには少し恥ずかしく感じられた。店内には、僕以外にはせっせと仕事に励む真面目な女性店員が二人いるだけだった。
あいみょんが若いということはなんとなく知識として知っており、その事がぼくの先入見を形作ったのか、あいみょんの歌声に感動させられるのは何か不当な事のような思われた。
適当なのを二、三見繕って支払いを済ませ店を出ると、外は既に曇り始めていた。来た道を戻り
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