洪水のあとに/道草次郎
仕の哲学者として知られるエリック・ホッファーという人の自伝本を、ぼくは先だって図書館で借りた。その図書館は水害のあったこの地区を見下ろす高台に位置しており、その白く瀟洒な佇まいはいつもどこか場違いな雰囲気を周囲に放っていた。
ホッファーは歩く人だったらしい。彼は20代後半の頃に経験した自殺未遂を契機にして季節労働者の道を歩き始めるのだが、これは文字通りの意味だったらしく、たしかどこかの箇所にこのような事を書いていた。
「自殺に失敗してふらふらと街をさまよいそのままの足取りで私は歩き始めた」
歩いて歩いて歩いて、その先にある歩いている自分の快さみたいなものを発見しながら歩き詰めに歩
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