麦の声/道草次郎
てはただ茶碗を洗いたい。船が港にもどるように、鳥が巣に帰るように、精神は旅を重ねるだろう。
あなたはあなたをどこまでも訪ねていく。いささかのドラマチックさを上目遣いに観ながら。こうして詩にしてしまうとどこか美し過ぎるが、項垂れることはない。つねに中心からは離れてゆく軌道をもった世界は、予め定められた昔を未来に取り措いている。一つの喜びを垂らせばよいだけかも知れない。波紋は育つ。それはあるがままに忠実に育つことだろう。
一つも難しいことはない。一つも簡単なことはない。難しがる自分と簡単がる自分とがこうして終わりなき論争を繰り広げるが、陽が昇り沈むそのさ中にあって、地平線だけが美しく沈黙をしている。
戻る 編 削 Point(3)