9月11日の付箋/道草次郎
 
の真ん中へたどり着いた様子だった。セイタカアワダチソウの先っぽにとまると、少し落ち着いたようだった。
 次の瞬間ふたたび蝶が空に飛び立ったかと思うと、一羽の鳥が急降下してきてその蝶をさらっていってしまった。ぼくはその一部始終を車窓から見た。ほとんどポカンとしてしまい、さりとて心に何かはげしい感情が起こるというのでもなく、しばらくは茫然とするばかりだった。
 ところが少し時間が経ってくるとぼくの胸はドキドキと波打った。全身に新鮮な血が巡るのが感じられエナジーが身内に滾り出すのが分かった。
 普通に例えるならばそれは感動だった。予期せず目撃してしまった命のドラマだ。ぼくは午後の間中ずっとほとんど何も手につかず、ただぼんやりと椅子に座っていた。何も言うことはなかったし、書くこともなかった。時計の秒針だけが静かな部屋に唯一の音を刻んだ。
 ふと、一億五千万キロの彼方で今この瞬間にも燃えている太陽のイメージが浮かんできた。そして蝶の運命のことを思った。


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