母/道草次郎
屈に
人生に背を向けるようなことを
平気で言って
母は
それを聞くたびいつもこう言う
「そういわないの」
母は搾られるだけ搾り尽された老いさらばえた山羊のように
そう言いながらもトマトを切って
パンを並べる
ジャムとマーガリンを出して
紅茶なのかべつにするのかと訊く
ぼくは親孝行というものから一番遠く離れた場所にまで来てしまったと思う
中学生の自分が凶兆として感じた未来とそっくりの未来を今生きている
父親としてはもっともくさり果てたところまできた
毎晩地獄の夢と地獄から救い出される夢を見る
右手がよく痺れるし
多分痛風ぎみだ
性欲もなく
本も読めない
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