柳蔭日記 2020.7/春日線香
病院だった。身体中に青いペンキを塗った人々が、病室のベッドで睦み合っている。一階から五階までおおむね全ての部屋がそうなのだ。不思議と廊下や待合室はしいんと静まり返っている。外は薄曇りでところどころ陥没した道路には水が溜まっていた。
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家を建てる時に壁に取り付けてもらったたばこの販売機を、三十年間一度も使わないまま解体したという。黒いパッケージに金で印字された高級そうな箱がぽろぽろ出てきたと聞いた。話のついでにひとつもらってみたが、黒糖のような香りがある以外はほとんど新品と変わりがないのが意外だった。
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