M君/道草次郎
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そんなM君を去年、地元のゲオの駐車場でみかけた。ぼくもM君もお互いの存在に気付いていたものの、けっきょく声をかけ合うこともなくその場は過ぎてしまった。帰ってきてアパートの駐車場に車をとめると、ぼくの手はいつもより少しだけ汗ばんでいた。
勤めていた菓子製造工場を辞めたM君が、何年か前から地元の自立支援の作業所に出入りするようになっていたことは人づてに聞いていた。ぼくはぼくで結婚をしていた。妻に彼のことを話したことは一度もない。
歳月は二人の男のあいだに大きな溝を作ってしまったらしい。学生時代なら腹を立てながらも跨げていた溝は、今では向こう岸が見えないほどに拡がり
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