夜に捧げる何か/道草次郎
 
をもう一度はじめから聞くハメになったのである。

妻はすぐ目の前で、声を出さずに身振り手振りをまじえて何事かを伝えようとしていたが、残念ながらその大半をぼくは理解することはできなかった。
要するにヤツをやり込めてくれと懇願していたわけだが、ぼくは自分でも情けない事にこの歳若い男の一方的ともいえる粘っこい主張に辛抱強くお付き合いしてしまった。
それどころか相手がまあそれなりに筋の通ったような事を言った時には、自分でも馬鹿だと思うが、「なるほど」とか「たしかにそうですね」とか、妙に相手の立場に立った物言いをしてしまうのだった。

みるみるうちに妻は不機嫌になり、ぼくは、なんとかこの話は夫婦
[次のページ]
戻る   Point(2)