夜はいい/道草次郎
夜はいい
家人がめくる新聞紙の音
県道を走るオートバイ
二件むこうの玄関ベル
ナツメ電球のだいだい色
夜はいい
電気の下のアイロン台
扇風機の弱
並んだい草のスリッパ
蚊とりマット
夜はいい
ノートが浴びる月明かり
掛け時計の夜光塗料
降り止まないこぬか雨
ブナの木に眠る大きい鳥
夜はいい
春は宵口
夏のねずみ花火
秋に夜ふかし
冬とは明けかけ
夜はいい
詩集をとじて
初めて知った息のしかた
七色よりも
暗がりという単一色
それはどこか希望に似ている
夜はいい
*
深海を泳ぐ
チョウチンアンコウ
誰かのもとへ
届けきらない愛を
灯し
水圧を
さまよう
戻る 編 削 Point(2)