第六七二夜の街/阪井マチ
 
に潜んだ美の在り方、物語の登場人物が死へ向かって進んでいく有り様、といった美と死に纏わる想念のみであった。
 ある日も美と死に思いを馳せながら彷徨していた青年は、それとは知らず《街》の境界を一歩踏み越え、未知なる領域へ入り込んでしまう。《街》による庇護を失いこれまで直面し得なかった恐るべき世界の側面に触れた青年は、あっけなく死に至る傷を負い、これまでの全てに呪詛を吐きながら悶え死んだ」
 朗読が終わり演者たちは舞台袖に戻っていくが、それと交替するように《講師》が現れて聴衆へ語りかける。
 いま演じられた劇は古い時代に起こった事実を描いたものだ、そしてこの不幸な罠に掛かる者は現在でも後を絶たな
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