第六七二夜の街/阪井マチ
 
「家が裕福で顔立ちも優れた青年が《街》におり、」とその物語は語り出される。
 思い掛けない一角から起こる破裂音が年々音量と頻度を増しているこの街の中で、世代を越えて変わらない物はこの上演会だけだったと言われる。ある年齢に達した幼い住民を一所に集めてこの会は開催され、音楽と舞踏で演出を施した朗読劇が披露される。劇の内容は毎年僅かに変わるものの、概ね次のような話の筋を辿る。
「恵まれた境遇で労働の必要のない資産を親から受け継いだ青年が世の中の美しい物に心を奪われて日々を過ごすうち、人との交際に興味を失っていった。しかし同時に自分自身への関心も薄れ、その頭を占めるのは例えば身近な事物や人間の外観に潜
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