ワタナベさん/道草次郎
 
ナベさんは笑顔でぼくらの様子を見ていた。

休憩時間が長引くにつれ痺れを切らしてきたぼくが、少しそわそわと体を動かし始めたとき、ワタナベさんはぼくの目を見てこう言い放った。

「ななさしさんは、いい目をしてるねえ」

ぼくは少しわざとらしくとぼけて、え?という返事を返すと、ワタナベさんはすでにお茶を飲み終えて作業に戻ろうとするところだった。その時のぼくは、肘掛けをいきなり抜かれてカクッとなる漫画のキャラクターみたいだったと思う。

それからしばらくワタナベさんとは会っていなかったのだが、ぼくがスーパーでワタナベさんを見かける数ヶ月前、誰かからワタナベさんはとある宗教団体の熱心な信者
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