花を買う/道草次郎
「言葉にならないなら、無理しなくてもいいよ。だって海にならないからって、水は流れるのをやめる?」
サクラソウという名前の花を買った。帰り道に食材を買いに寄ったホームセンターの見切り品コーナーで、その花は、申し訳なさそうに売られていた。
家に帰るとすぐにそいつを窮屈なビニールポットから救い出し、多少なりともマシなプラスチックの鉢へと移し替えてやった。なみなみと注がれた水がわずかにへりをつたい落ち、鉢受けをぬらした。
ぼくはしばらくその場にたたずみ、渇いた茶褐色の土が、充実した湿っぽい黒土へと変貌していく様を眺めていた。いつもより少しだけ満足している自分がいて、そのこと
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