花を買う/道草次郎
ことが、ぼくにはとても意外だった。
サクラソウの根元を凝視しすぎたせいか、眼の奥が渇いてしまって痛い。だが、この渇きは単なるドライアイではない気がする。スポーツドリンクを飲んでも、この渇きは治まるどころかむしろ深まっていくことだろう。そのことを、ぼくの心は知っている気がする。
家からそう遠くない場所に時給850円の働き口があり、明後日からぼくはそこでアルバイトの仕事を始めることになっている。
長靴を履き、支給されたエプロンを付け、右のものを左に運んだり、せっせと何かを並べたり、骨折りな作業も随分しなければならないだろう。手の届かないところにいる人へ十分ではない額のお金を送るために。
サクラソウという名前の枯れそうな花が、いま、ぼくの部屋にはある。時間を掛け、慎重に、世話をすることを誰かに約束したいと思う。
よし、今のところはいい調子だぞ。
まだ見た目にこれといった変化はないけれど、ぼくにはそれが何となく分かるんだ。
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