空耳/そらの珊瑚
こつそうじ、は寺の名前だと思うが寺は見当たらない。
あけのもんまえ、は門の名前だと思うが門らしきものも見当たらない。
バスはブレーキの存在を一ミリも感じさせないほど自然に止まる。
扉が開く。けれど誰も降りないし誰も乗らない。
数秒ののち、大きなため息をつき、扉を閉めたバスはのろのろと発車する。
マスクをするようになって言葉が聞き取りにくくなったし、色々間違うことが多くなった。
顔下半分が見えないことで、誰もがあやふやな知らない人に見える。私も誰かのあやふやに知らない人になる。
誰かが降りたかもしれないし、誰かが乗ったかもしれないバスの窓から見える景色は、とっくに梅雨が
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