夜の底で/道草次郎
「わたしたち、どうしてこんな話してるんだろうね」
そう言って君は口を噤んだ
僕も何も言わなかった
言えなかった
沈黙がしばらく続いた
久しぶりに一緒に吸った沈黙
それに縋れるほど
もう僕ら
単純じゃないのは知ってる
夜の底で
降りしきる雨だけが
やさしげなのは
やっぱり良くないことなのかな?
僕らには
手に負えないだけ
いろんなことが
手に負えないというだけ
変わり映えしないドラマの
1シーンのように
雨が降っているところなんか
じつに馬鹿げてるよ
単純だよ
やっぱり
一つだって複雑なところなんか
見当たりゃしない
見切りをつけて振り返らないこと
必要なのはそれだけだって知ってるのにね
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