波紋/メープルコート
 

 湖面に広がる波紋の数をそっとなぞると朝が来る。
 ぼんやりした空模様に湖岸の紫陽花は沈黙を守る。
 ほんのり青味がかった空気を吸うとまた一つ思い出が増えた。
 野鳥の声の鳴り止まない切ない朝だ。

 山の向こうのあの村で青年は机上の鬼となる。
 描くもの全てが音となり歌となる。
 凄まじい文才は時に天使に時に悪魔に。
 奏でる虹は絵画のように。

 悲しみは川の流れに身を寄せて、
 切なさを胸の鼓動に携えて、
 嬉しさは人の心に染み渡る。

 あぁ、曇天に響く切なる歌よ。
 どうか人々の心の支えになりますように。
 湖面に広がる波紋のように。
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