冒険/タオル
橋の下はこれまた相当幅広い川がゆったりと流れているようだった。
『これから僕らはあの森へ冒険にいくと思う。』
先刻、マウスを執拗に叩いていた指のさきで小さく光る緑色を差しながらそのひとが言った。
わたしはぞわっとした、これからずっとこのひとと冒険しつづける、そういう人生だと。
『でも僕は、童貞なんで。あなたも巻きこまれて、処女のままです。
そういう対称なので、僕らはずっとそう、子どもの時のようなまんま、
決して男女の関係、体の関係など持たず、ただ一緒にいて楽しいと思いながらずっと冒険し続けます、
あのエメラルド色の森に向かって。』
わたしは少し涙ぐみそうになりながら力強くうなづいた。
ゆるやかな坂からふたりは流れ落ちる。
わたしのまぶたはしぜんと閉じられる。
そしてどうでもいい事を思い浮かべてしまう。
あの事務机の上にはいまもどこかの百貨店を映し出したまま時を止めたパソコンがあるのだろうか、
いかにも百円のスコップも床のどこかに転がったままあるのだろうか、と。
戻る 編 削 Point(4)