メモ(いくつもの呪い)/はるな
 

このベランダにはほとんど雨が吹き込んでこない。建物が林立しているために風が入り込んでこないのだ。降っていても裸足で出る、湿ったタイルの心地、むすめが背中にぴたりと張り付いてくる。
咲いた蘭、いくつかのハーブ、多肉植物すこし腐ってる、実らない茄子と固いトマト、乗らなくなった三輪車。赤がもうすっかり褪せて昔みたいな気持になる。
「ままー」「コップがあるんだよね」「こころにコップがあっていっぱいになったときないちゃうんだよね」「はなのコップは ひろーくて ハート模様でガラスのとうめいなんだよなー」「ままは?」
時間と同じように、
大きくなったり、小さくなったりするコップの、いまはとても小さいコップの、中にはそんなに入っていない。ここのベランダみたいに、もうそんなにたくさんは吹き込んでこないのだ。だから不安なのは雨よりも風向きで、このビルがなぎ倒される時が来ないことを願ってる。
プラスチックみたいに強くなったらいいよね。と言うと、
「なればいいじゃん。」
返す言葉をうろうろ探しながら、むすめの言葉がいくつもの呪いに根を張っていく。


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