ある疑問/まーつん
 
が鳴き止んだ。

「その人は、君のことを嫌いになれるほど君のことをよく知ってはいないかもしれない。だって本当の君を知ったら、嫌いになんてなれないはずだから」
 そう言って屈みこむと、僕は娘の頭を撫でてやった。
 娘は悔しそうな表情を浮かべて泣き出した。ピンと伸ばされた両腕の先で小さな手は拳を作り、微かにふるえている。僕は娘を抱きしめながら、自分が最高の偽善者になったような気もしていた。ある宗教はこう語っている、「汝の敵を愛せ」、と。僕は今、本当の敵は自分の中にある恐れなのだ、と娘に伝えた。だが娘がそのことを真に理解するまでに、どれほどの傷を心に負わねばならないのだろうか、と考えると、暗澹とせざるを得ない。 
 
 こうした知識は言葉ではなく、経験によってのみ身につけることができる。そして現代の殺伐とした社会は、そんな機会を惜しみなく娘に与えることだろう。いやむしろ嬉々として、悪意を持って投げつけるだろう。悲観的過ぎるだろうか。

 どこかで鶯が鳴き始めた。



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