もう若くない/もとこ
 
お酒とバカ騒ぎの魔法が色褪せ
宴の糸も解れて独りになる時刻
酔いが醒めると共に膨らんできた
得体の知れぬ不吉で黒々とした塊から
逃げるように入ったファミレスの
無機質なトイレで化粧を直せば

【もう若くない】

ずっと昔にテレビかラジオで聴いた
古い歌の断片が心臓に突き刺さる

ちょっと前までなら今ごろは誰かと
ベッドの中で同じ夢を見ていた
少なくとも同じ夢を見ているのだと
信じながら眠ることができたのに

わざと置き忘れてきたものたちって
結局はすべて背中に張りついている
ただ
見えないから誤魔化しているだけで
ずっと
そんな愚かなことの繰り返しで

それでも鏡の中にある現実から
決して目をそらすことはない
そのことだけを唯一の誇りにして
わたしは自分の内側から生まれ
少しずつ全身を包みこんでいく
懐かしい潮騒に耳を傾けてみる
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