時の弓/船曳秀隆
影の自由を伸ばして
私の弓は折れてしまった
占いの結果が判らずじまいだったけれど
私はそれでもいい
弓がかわいらしいから
鏡の前に座り
頭髪のパーマを
光の弓矢で梳かす
光を照らす欲望の空を
大地は嫌う
大地の哀しみを
水は嫌う
強く瞳を見開いて
汚れを反らし
弓を膨らましてごらん
水の香りが弓音にするだろう?
大地の形を弓はしているだろう?
嘘の空をはずかしめて
私は虹の裸を撫でる
虹の背中を折った 驚いた朝に
誰もが嫌ったはずの
死の階段が見える
汚れるほど美しい足元から
水香が あふれてくる
私は
水の実に
静寂という矢を
そっと
放った
※水の実→盆の供物の一種。
(船曳秀隆詩集『光を食べてよ と囁(ささや)く螢烏賊(ほたるいか)』より。)
〈時の弓→初出:『現代詩手帖』2007年9月号思潮社〉
「時の弓」朗読YouTube動画2020年1月19日
https://youtu.be/esxquFp1rcY
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