虚無の海に死す/立見春香
 

犯人はおまえだという、
心を返せという
恨みごとが
耳に
こびりつく。

深いため息に疲れる
ザラザラとながれる血の色
胸はいつも
おかしな方向から
傷つけられる
まるで望まれない子の
名前のように、

予感がする、
その夜の
海岸線で
波の嗚咽のような哀しみが
聴こえている
ここで、
満月に
讃えられた名探偵の
気持ちなんか
わからない。

無数の、
哀しみが打ち寄せる
なかで繰り広げられる
名推理、
まるでまとわりつく子守唄みたいな
夜の海が近くに押し寄せる。

なにもしらないのに
しってる眺めを楽しむ
崖の上に
追いつめられた怪盗のように
身を翻し
すべてを許す海へ
その身を投じればすくわれるかも
しれない、

という
最後の最後に騙される絶望、

ありふれた

虚無の海に、
死す。







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