ぼく/為平 澪
「吐き出してしまえば、その場で楽になれる場所」として、ぼくは作られた。
誰かの口から出る汚物、言葉も想いも退廃物も全て受け入れるための便所。
ぼくは黙って暗い場所で口を開けていればよかった。美しくなろうとも思わなかったし、それどころか美しいというものがどういうもので、どういうことなのか、もう覚えてはいない。風も届かない。けれど風が吹いたなら、ぼくからは臭い匂いが流れると人は言う。ぼくの白かった服は、今では落書きと傷と落ちない汚れに塗れて、そのあとは、それを付けて行った人たちについて沈黙していればよかった。そしていつか、きれいに壊されてさっさと消滅することだけが、ぼくの一番望んでいた未来だ
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