命はめぐまれた/万願寺
朝を磨こう。あなたの朝でいいよ。それはとても蒸し暑い午後三時かもしれないし、泣きたくなるほどこごえる夜の二時かもしれないよね。でもそれが、それだけがあなたの朝。あなたはめをさまし、その瞬間から終わりに向かって息をし始める。大いなる次の夜に向かって、あなたは朝にまず水を飲んで。海に帰れないことをそこで知るよね、味が違うの、人間の飲む水、これはこれで。きっとそう思ってくれるでしょう。オレンジのひと切れを食べて、窓をあけて、空をたしかめて、そして服を着るでしょうね。あなたは好きな服を着て好きな場所へ行き、たまには自分以外のにんげんのこころ、という名前の詩をよんだり、容赦のない音楽にさらされたりするかもしれない。そうこうするうちに、やまぎわはむらさき。夜がくる。朝に備えよう。そうしたらまた朝を磨こう。この世でいちばんうつくしい朝をあしたこそ迎えるために、あなたは目を閉じる。その時きっとやる気に満ちているよ。朝はそもそもきれいなのに、あなたには、さらにそれを磨く権利があるなんて。
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