抒情/メープルコート
雨降りの休日に訪れた西洋館。
静かな音楽が流れ、時が緩やかに過ぎてゆく。
思い出すのは祖父の家。
誰もいない応接間に幼い僕がいる。
飾り棚に美しい酒瓶、アンティークドール、日本人形。
年月が染みついた匂い。庭が見える。
ちょこちょこ顔を出す祖母ももういない。
時の鐘が無表情に響く。
いつまでも子供でいたかった。
人生に悲しみが降り積もる。
いつの日か僕も消えて無くなるのだろう。
床が軋む西洋館で僕は雨を見ている。
そろそろ歩き出そうか。
小さな思い出を残して。
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