語らい/
梓ゆい
宙へと向かい腕を伸ばす甥っ子の小さな手が
何かを握っている。
目の前の光景は
会いに来た亡き父の
右手の人差し指を握っているのだ。
「おじいちゃん。」
その一言を伝える代わりに
喃語を発しながら
甥っ子は笑う・笑う。
父がいるであろう方向に
ちょこんと生えた白い歯の先っちょを見せて。
きっと父も手を伸ばしているのだろう。
ふわっと揺れるやわらかな髪の毛に覆われた頭を
優しいまなざしを向けてなでるために。
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