ひとの背中に書かれた文字を/千波 一也
ひとの背中に書かれた文字を読めていたならば
放ってはいけない言葉を慎めたかも知れないけれど
触れてはならない傷を避けられたかも知れないけれど
読めないほうが幸せだと信じていたい
ひとの背中に書かれた文字を読めていたならば
どんな願いごとを秘めているのかが明るみになるけれど
どんな期待を背負わされているのか明るみになるけれど
読まれないほうが有難いに決まってる
ひとの背中に書かれた文字を読めていたならば
ひとのこころを知るための道のりは易しかっただろうか
それともそんな道ごと消えてしまっただろうか
ひとの背中に書かれた文字を読めていたならば
わからないことに悩まずにすむ喜びが待っていただろうか
それとも喜びなどは失せてしまっていただろうか
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