嘘/AquArium
真意を問いただす勇気がなかったあの夜
心に半分嘘をつきながら歩いた
「騙されてあげるね」と
大江戸線に向かうエスカレーター
後ろから囁くあなたは
想像より無邪気で、ずるい
もう子どもじゃないんだから、と
何度言い聞かせても足りないくらい
たしかな温かさを求めていた
この空間に唯一邪魔者がいるとすれば
それは私の猜疑心だった
核心に触れないあなたの言葉だけが、響いた
思う存分見つめ合った先に
見えた世界がせめて同じなら、いいなと
わたしは目を開けたままキスをした
少し動いただけで目を覚ます
繊細さが似ている
寝ている間に本音を呟けそうも、ないね
「足りない、足りない」と
キスをせがむあなたの素直さを
羨ましく思うほど大人になってしまった
手に入れた知識の数だけ
幸せを怖く感じさせるから
本当は、騙されるなんて御免よ
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