秋霧の朝に/帆場蔵人
課題詩『秋の霧』対応随筆
夜勤明けの朝には霧が深く立ち込めていることが、しばしばある。僕の住む地域は盆地であり、すり鉢の底に水が溜まるように霧も溜まり濃い霧の中に町は沈む。視界も悪くなるので、自然、自動車も心持ち速度を抑えて緩々と走っていくことになる。この霧なら今日は晴天になるだろう。通学児童の色取り取りのランドセルを横目に、秋の霧が出る日には晴天になる、と教えてくれた人を思い起こしていた。
僕は臆病な少年であった。夜のトイレ(昔、田舎の便所は屋外にあった)など年長の兄を夜中に起こしては不平を言われたものだ。ある朝にサッカーの早朝練習に行こうとして立ち込める霧を前に、玄関先で立ち尽くし
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