自分史(音楽事務所勤務時代14 ー 会社解散)/日比津 開
聘してきたクラシックのア
ーティストは枚挙に暇がない。
僕たち従業員はこうしたクラシック音楽界の
老舗で働けたことは誇りに思っていたが、ただ
一つ社長ご夫妻が後継者を作らなかったことは
非常に残念に思えた。おそらく、社長ご夫妻は
自分たちが一代で築き上げた会社の財産、名声
を他の人に安易に渡したくなかったことがあっ
たのだと思う。
マネージャーの中には別会社を作り、アーティ
ストたちの何人かを引き継いで招聘していくこ
とになったが、僕は彼らとは同調はできず、解
散の前に退職することにした。
ウィーンに旅行したき、『この仕事を僕の天
職として一生かかわらせて下さい』とブラーム
スのお墓の前で祈ったことは叶えられなくなっ
た。僕が提案し育成してきた会員組織は自分の
子供のようなものだったが、会社解散により会
員もなくなり、子供を亡くしたような虚脱感、
悲しみを味わった。
唯一の慰めは、退職のとき会員の何名かの方
が集まり、送別会を開催してくれたことだった。
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