なんとか生きている/帆場蔵人
 

亡霊の軛を壊し、言葉を意味をみつけよ

禁煙を破って煙草を吸えば喉と肺が
途端に軋み始める、生きているのだ

ボタンを掛け違えちゃいけませんよ

なんにしても些細な事から
間違いは起きるんですから

ひとつ、ふたつ、みっつ、間違いが
積み重なって訪れる幸福だってある
あるいはどちらか解らない死に方も

ひとつ、ふたつ、みっつ……
緩んだ蛇口から垂れる排水口へ
掴みかけた意味が呑み込まれて
いく明日に向かうでもなく

亡霊たちは一様に口を開けて
言葉の雨を受けて再生する
その形を微細に変えていく

台風一過の朝、洗い流された全てを前に
私もまるで亡霊のように朝陽を浴びている
微細に変わり続ける細胞の歌を聴きながら

その全てが私であり、間違えなどない
生まれつきボタンを掛け違えてたなら
それが僕なのだ、その歪さこそ人間だ

ズレている植木鉢を元に戻して
灰に変わっていく光を吸い込み
僕は激しく咳き込んでしまった
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