落下と膨張/新染因循
ある朝、わたしは透明になった。
世界は膝を抱えて仰いだ青空であり
そこへとあらゆるものは落下していた。
それは重力という現象ではなく
存在という重心へと還っていく風景だった。
この風と岩、水だけの星をおいてけぼりにして
宇宙はどこまでも広がりつづけるという。
道ばたの雑草も、空中庭園の薔薇も
彼方へ、彼方へと伸びているのではなく
最後の息をはいて落下しているのだ。
雨と雨との距離さえ膨張している。
川の対岸に舞う蝶々、麦畑の金色の波、
夜が詰まってしまった側溝の饐えた臭い、
踏みにじられたショートホープの吸い殻、
親しんでいたものすべてが遠くにある。
とど
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