旅/為平 澪
 
 グラスを傾ける

けれど
赤信号で突っ立たままの歩行者の眼を
ホテルに入れてもらえないまま路地裏に消えた女の顔を
パソコンのディスプレイに取り込まれて点滅しているビジネスマンを
そして
どんどん大声になっていく 赤いジャンパーの男の
膨らんだケットの中のモノのことを
思い浮かべて目を瞑れば
はぐらかしていたものに おいかけられて
サイレンの音は鳴り響く
   (病院に運ばれるのだろうか
   (警察署に行くのだろうか

否、おそらく
目のない 開かれたままの鯛と同じ方角へ…。

賑やかだったエビス屋のラテン音楽は店じまい
華やかだった色を浮かべたあのグラスたちでさえ
他人の顔をして 吊り下げられる

騒がしい喧騒の街を 
巨大な手をした夜が
旅に出た者たちを
ことごとく 片づけていく



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