サイレンス/la_feminite_nue(死に巫女)
 
 それは前に進む落下。わたしは音のない世界に迷いこみ、無音の音を聞く。それは花。それは実。それは果実。それは乳房。──それは女。それは男。林檎は世界を映しあったまま、白い広がりへと吸い込まれていく。──それは世界。林檎は音のない世界で、砂のように溶け去る。地に触れた瞬間、ゆるやかに空を泡立てて。楓は言う、「それはあなたのなかにある世界」。それに答える男の瞳はうつろだ。その目のなかに、無数の林檎が映し出す色彩が刷り込まれている。それは花、それは実。それは果実、それは生殖器。ミツバチが花粉を運んでいくように、世界球から世界球へと一つの糸が橋渡しされる。それは後戻りする倦怠。アンニュイの音のない調べ。わ
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