<詩「あるなんでもない日」、「白き神の抱擁」、「婚礼」、「カフェ」「君の来る日」、「山城合戦」、「冬.../タカンタ、ゴロキ、そしてパウロ
 
までピアノを弾いた。彼女は本能と世界の完全なる調和を見出したと
感じたが、まだ、それを言葉で言い表すことはできなかった。しかし、それが素晴らしい時であるこ
とは確かであった。

 不思議なことに僕は、その少女にいつ出会ったのか正確には思い出せない。学校で開かれた音楽会
の後でだったのか、それとも、僕がしょうこう熱で学校を休んでからのち、学校に一カ月ぶりに向か
う秋の通学路で会ったのか。その少女の笑い声、優しい顔立ち、野性的なきらりと光る眼、鼻孔の優
雅な曲線、僕は十五歳のころに戻って、その仄かな記憶を何故か思い出した。もちろん、少女は優香
里ではない。

 佑之輔は若かった。それまでの人生で悲哀など一度も感じたことはなかったが、明るい朝に屈託の
ない気分になれない理由などどこにもないのだと、あれこれと大層な理屈を並べなければならなかっ
た。彼女に結婚を申し込んだことは正しかったのだろうか。彼は眠気に誘われた。そして、また、何
故か十五歳の頃に戻っていき、あの少女の顔を思い出した。

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