あれが灰色の海であれば/la_feminite_nue(死に巫女)
 
 梅雨が割れて、──あの灰色のあたり、あそこから落ちてくるのだろう。靄った街のあいだに。そこここに光、それは人の気配であるのだけれど、私を通過していく。私は薄い闇だけを見ている。グレーの綿。あれが灰色の海であれば、私は天に立って、逆しまに世界を見つめている──ため息と、いくつかの呆れた思い。親なし子のように、水のない海の底を泳ぐ愚かさだけを引き連れて。年月だけが、経ったかのように感じられる? 感じられはしないけれど、たしかに月日は経って。元に戻りたい? 戻りたくはないけれど、なくしたもののことを弔っている。こころのなかに、梅雨、ぽっかりと、空隙があって。世界は湿度で満たされているはずなのに……。あ
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