風鈴/
七
宇宙が生まれてからあっという間の
この夏
待っていた風がようやく
畳を撫でた
りーん
ちりーん
光の速さでピントを合わせる
この夏
皺だらけになった母の喉元が
麦茶を呑み込んだ
「せみがうるさいねえ」
蝉の透明な殻はどれも
宇宙服のように正しく掛けられて
その持ち主は見あたらない
脱いだら死んでしまうというのに
みなそれくらい夢中なんだろう
りーん
ちりーん
青畳の上で
わたしたちは
ひとりきりだった
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